りずろぐ。

ぬるくやわらかく

りずろぐ。

叔母がいてくれたこと

 

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子供の頃、両親はとても仲が悪くて、家では毎日のように罵声が飛び交い、日常的に父は母を殴っていました。

 

父も母も私に対しては優しくしてくれていたけれど、お互いがお互いの悪口を言って聞かせるものだから、どちらのことも好きだった私はどう受け止めればいいのかわからなかったし、それなら両方の血を引いている私はなんなんだろうと思い悩んだこともありました。

 

あるときいろいろあって、というか毎日がいろいろあるようなものだったのだけれど、両親が離婚する方向で進めていたことがありました。

母は当たり前のように「お母さんと来るよね?あの人と行ったらお母さんとは二度と会えなくなるよ」と言い、父は祖母と共に「なんでも好きなことをさせてあげるし、お金の面で不自由な思いはさせないから一緒に来なさい」と言いました。「お母さんはお前が邪魔なんだって。お母さんを幸せにしてあげないと」とも。

結局、私はどちらとも答えられないままでした。

 

ある晩、私は早々に寝かしつけられたものの眠れずにいると、両親が叔母の立ち会いのもとで離婚の話し合いを進めているのが聞こえました。

詳しい内容まではわからなかったものの、お互いがお互いの不満を述べていることと、冷たい空気が流れていることだけはよくわかりました。

そのときに「あの子のことはどうなるの!どうしてあの子の気持ちを考えないのよ!」と言って泣いてくれたのが、叔母でした。

 

私にとって叔母はもうひとりの母親のようであり、姉のような存在でもありました。

朝早くパートに行くため私を幼稚園バスの乗り場に連れて行けない母の代わりに、毎日車で幼稚園まで送り届けてくれました。

長かった私の髪をいつも綺麗に結んでくれて、時には勤め先の百貨店で買ってきたおしゃれな子供服をプレゼントしてくれました。

 

夏休みになると、近郊に住んでいた叔母のアパートに泊まりに行くのが楽しみでした。

あまり広くはなかったものの、叔母の趣味でいっぱいの部屋はとてもかわいくて良い香りがして、私は大好きでした。

叔母の家で、叔母と一緒にテレビを見たり雑誌を見たりお菓子を食べたりする時間が、私にとっての幸せでした。

 

しかし、ある時転機が訪れました。

叔母が恋人を連れてきたのです。

 

紹介されたのは、細身で眼鏡を掛けた大人しそうな男性でした。

人生最大に嫉妬しました。これほどまでに強い嫉妬の感情に駆られたのは、今日まで生きてきた中でもこのときだけです。

 

それまではずっと「あなたのことが世界で一番好きよ」と言ってくれていた叔母が、「あなたと彼は同じくらい好きかな」と言ったとき、心の底からあんな奴いなくなってしまえばいいのにと思いました。

私の、私だけの叔母を奪ったあいつが許せない、と。

 

そんな私の思いも虚しく、しばらくして叔母はその人と結婚しました。

叔母の結婚式の写真には、死ぬほど仏頂面の私が写っています。

 

それから数年が経ち、またいろいろあって、私たち家族(両親は結局離婚しませんでした)は遠いところに住むことになりました。

さらに少し経って、今度は叔母の娘、私にとってのいとこが生まれました。

 

再び叔母に会ったのは、私が大学受験のときです。

東京の大学を受けるために、関東圏にある叔母の家に二週間ほど寄寓させてもらいました。

 

試験の直前にも関わらず、正直言ってほとんど勉強なんてしていませんでした。

叔母は事あるごとに「調子はどう?お茶はまだある?おなかすいてない?」と声を掛けてくれたし、私も私でそのたびに叔母とのお喋りに興じ、買い出しに同行し、リビングでくつろぎと、受験生にあるまじき過ごし方をしていました。

 

午後にはいとこの幼稚園バスのお迎えにも行きました。

いとこがこれまためちゃくちゃかわいくて、お姉ちゃんお姉ちゃんとたくさん懐いてくれたし、一緒に公園に行ったりプリキュアの塗り絵をしたりして遊び、お風呂にも毎日一緒に入りました。

ちなみにその間、叔父とは簡単な挨拶以外ほとんど言葉を交わすことはありませんでした。

 

私がかわいいお洋服を着るようになったのもこの時からです。

叔母に「ねえ、どうしてあなたはいつも暗い色の服を着ているの?」と聞かれました。

 

両親(特に母)はあまり女の子らしいデザインのものが好きではなかったらしく、いつも紺やグレーやカーキ色の服を用意しては「あなたはこういうのが一番似合うから」と言っていたし、「ピンクだのリボンだのは頭が悪そうに見えるからやめなさい」とも言われていたので、私も私でそういうものだと思い込んでいたのです。

 

大きなショッピングモールで、「こういうのが似合うと思う」と言って叔母が手に取った服は、ピンク色の花柄で裾がバルーンになった華やかなワンピースでした。

そして促されるまま恐る恐る試着した私を見て、叔母は「かわいいかわいい!ちょっと!ロマンティックが止まらないわ!」と喜んでくれました。

その時はじめて、あ、私もこういうのを着てもいいんだ、と思いました。

 

それから無事大学に合格し、東京で一人暮らしを始め、学生のうちは何度か叔母の家に遊びに行ったり逆に来てもらったりしたけれど、それからはずっと叔母には会えていません。

叔母も私もお互い忙しいだろうからと遠慮しているのだと思います。さらにはこのコロナ禍。

 

少し前にLINEでやりとりしたときに、いとこと一緒に撮った自撮りを送ってくれました。全然変わっていませんでした。

私も自分が写った写真を送ったら「全然変わってないわ!かわいい!お洋服も素敵!」と褒めてくれたので、やっぱり叔母のことは好きだなって思いました。

 

「たとえあなたがどんなに悪いことをしても、世界中があなたの敵になったとしても、私は絶対絶対あなたの味方だからね」と言って抱きしめてくれた叔母の存在が、今日まで生きてくる上でどれほど大きな支えになってくれたことか。

いつかちゃんとお礼が言いたいし、なにがあっても叔母にだけは迷惑をかけないようにしなきゃいけないなって思います。

 

特にオチはないです。